ECADとMCADの違いとは
はじめに
電子機器の設計者の負担を大幅に軽減してくれるツールは数多く出回っています。仮想世界では、完全な設計をかなり細部までモデル化して、設計自体がうまく機能するかどうか、製造段階ですべての部品が正しく配置されるかどうかを確認することができます。ここでは、回路の試作を完成させ、筐体のモックアップを作成して設計を検証します。これはコンピューターによってほんの数秒で実行され、すばやく簡単に低コストで調整を行えます。設計者が利用できる2つの基本的なツールは、ECAD(電子系CAD)とMCAD(機械系CAD)のパッケージです。
ECADとは
ECADソフトウェアでは、PCB(プリント回路板)のレイアウトを回路図から作成し、コンポーネントの配置が3Dモデルで表示される仮想のPCBを生成したり、回路基板の2Dの製造図を作成/表示したりすることができます。
コンポーネントの寸法線の標準ライブラリには特注の部品や珍しい部品の詳細も補足されており、PCBの所定のサイズ内に基板を収めるために必要となる情報を確認できます。
また、コンピューターによるトレース配線の論理と手動/コンピューターによる最適化を組み合わせることで、レイアウトの設計にかかる時間も短縮できます。さらに、自動ルールチェック機能を使用すると、レイアウトでの配線をある程度正確にしてから、手動での見直しや性能のシミュ―レーションを行えます。
設計した基板を3Dで表示すると、熱管理を目的とした空気流に関する障害や部品の物理的な衝突がないかどうかをすばやく確認できます。また、製造段階の自動コンポーネント配置装置に設計が対応しているかどうかもチェックすることが可能です。複雑なマルチボード設計では、完成したアセンブリを可視化して、1つの基板上でコンポーネントを接続できることが大きなメリットです。
ECADは、複数のチームメンバーが異なる機能や設計の要素に取り組んでいて、それぞれの担当箇所をまとめる必要がある共同設計作業でも威力を発揮します。
MCADとは
MCADソフトウェアでは、機械部品、機器の筐体、取り付けコンポーネントなど、物理的な構造物を構築することができます。また、3D画像として設計をバーチャルで表示しつつ、製造図を2Dで作成することも可能です。
パラメトリックモデリングとダイレクトモデリングの手法では、2Dの図面と3Dの表示で構造物を作成、修正できます。複数の構造物を個別に設計して、最終的な機械設計でバーチャルに実装することも可能です。ここでは、部品の衝突や構造のギャップについて、アセンブリを見直すことができます。
シミュレーションツールでは、設計の機械的なプロパティ、強度や剛性といった要素を計算して、環境保護の要件に準拠しているかどうかをテストできます。
ECADとMCADの統合
ECADとMCADでの作業内容を統合すると、仮想環境で電気部品と機械部品を実装して、以下のような適合状況について確認できます。
- PCBの筐体の取り付け具の先端は、正しい場所に配置されているか。
- ねじ穴は正しく配列されているか。PCBに搭載されたコンポーネントに十分なクリアランスが確保されているか。
- PCBが筐体に収まるか。コンポーネントがケーシングに当たっていないか、または大きすぎて中に収まらなくなっていないか。
- PCB全体で筐体の空気流が計画どおりになっており、ヒートシンクを最大限に効率化できるか。
- 必要に応じて、PCBで生成された熱が筐体に伝導されるか。
- 筐体に与えられた振動や機械的衝撃がPCBに搭載されたコンポーネントに悪影響を及ぼさないか。
完成した設計を3Dで表示して、電気部品と機械部品の物理的な接続状態を確認することで、上記の質問にすばやく容易に答えられるようになります。ECAD/MCADを連携させることのメリットは、わずか数分でエラーを特定して設計を調整し、その内容を検証できることです。
多くの場合に問題なのは、ECADとMCADのツールに互換性がないことです。ECADとMCADで使用できるデータ形式が異なるとエクスポートが複雑になり、データセットにエラーが発生してしまうことが多々あります。そうなると、ツールを使ってせっかく時間を短縮したのに、それぞれのデータが一貫しているかどうかを手動でチェックするのに別の時間がかかることになります。こうした誤りは、製造が始まったばかりの新しい製品で、筐体がPCBに収まらないことが実装の工程で見つかるまで発見されない恐れもあります。
最近では、ECADとMCADの連携についての正式な標準の策定に向けて、ツールメーカー間の取り組みが進行中です。そのおかげでツールに自動プロセスが搭載され、設計の情報を双方向でやり取りできるようになっています。それらの情報には両サイドの変更が反映され、複数のチームで効率的に共有、検証することが可能です。
統合された設計プロセス
統合されたECAD/MCADでの作業は順番に、または個別に行うことができないのを覚えておきましょう。どちらのデータも他方のデータに影響を及ぼします。たとえば、ECADではPCBのベースラインとなる実際の寸法線を決定し、筐体の設計に影響を及ぼす熱管理や振動に関する制約事項を特定します。その一方でMCADでは、外部のサイズ要件や、空気流の出入り口の配置などの要素に対応するために、PCBのサイズやコンポーネントの配置に制約がないかどうかを特定します。
設計チームが 筐体を自由に設計し、あらゆる基板のサイズを使ってPCB設計を最適化できることはほぼありません。通常、筐体の設計ではPCB設計に制約が加えられ、それが電子回路設計に影響を及ぼします。ECADとMCADを統合することで、最適なソリューションを見つけるための制約内で、チームが連携しながら選択肢を探れるようになります。
ブロックのような筐体に長方形のPCBを使用することが強制されないうえ、従来のシンプルな設計と同様にすばやく低コストで複雑な形状を構築できる可能性が広がります。
まとめ
仮想環境で電子設計と機械設計の各チームがECADとMCADの統合ソリューションを使って並行して作業できるようになるのに、以前は数か月という時間が必要でしたが現在ではそれが数日で実現します。ECADソリューションでは電気/電子コンポーネントの配置、MCADソリューションでは機械部品での設計プロセスが最適化されます。これら2つのソリューションの統合とデータ共有の自動化によって、全体的な設計プロセスを根本的に変えることができます。つまり、PCBと筐体が単に適合するだけでなく、実装された製品が確実に想定どおりに機能することを確認したうえで、製造に設計を引き渡せるようになります。
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