PCB製造の溝を埋めるベテランのDirk Stans
Judy Warner: Dirkさん、電気業界でのご自身のキャリアパスと経歴について簡単に教えてください。
Dirk Stans: 私はDISCに就職し、電気エンジニアとしてのスタートを切りました。DISCは、入社して1年後、Barco Graphicsになりましたが。入社初日から、私はヨーロッパのPCB業界向けのCAM(Computer Aided Manufacturing)システムの販売に携わりました。ここで私は、1989年以降のヨーロッパおよび世界的なPCB業界の進歩に関する見識を得ました。ヨーロッパは世界のプリント回路基板の40%を製造し、現地の各企業は相変わらず量産に専念していてもかなりの収益を上げることができました。一方で、これとは別に未開拓の市場があり、エンジニアはこの市場での試作品の作成に苦労していました。ヨーロッパで最初に電子製品をOEM製造した大企業が、極東および中国に子会社を設立しており、多くの他社もすぐに追随しました。ベルリンの壁が崩壊し、ドイツが再統一される1年前、他の東ヨーロッパ諸国がソ連から解放されました。市場は活気づき、ヨーロッパは岐路に立たされました。この結果、電気エンジニアたちは冷遇されていました。チャンスは、多くの場合、混沌から生まれます。同僚で仕事のパートナーでもあったLuc Smetsと私は退職して、東ヨーロッパからのPCB製造の小口注文を、自分を価値のある顧客として扱ってくれる取引相手を待ちわびているエンジニアたちに仲介する仕事を始めました。電子機器開発エンジニアのためのPCBの試作と少量生産という、私たちのユニークな販売ビジネスが誕生しました。基板の仲介を始めて間もなく、私たちの最大のサプライヤーだったハンガリーの国有PCB企業を買収しました。1993年5月1日、私たちはベルギーに拠点を置くハンガリーのPCB製造業者になりました。それ以降、今でも、私たちは全ての収益を自分たちの事業に投資しています。これにより、ベルギー、ハンガリー、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス、スイス、インドのグループ所在地で約400人が働くチームに成長しました。2017年は、12,000人のヨーロッパの顧客から仕事がありました。これは、20,000人を超えるユーザーから107,000件をはるかに上回る注文があったことを示しています。今日、私たちのビジネスはほぼ100%オンラインで行われ、標準技術のPCB向けに最大レベルの範囲のサービスを提供しています。
Warner: 当時の明らかな政治的、経済的状況に加え、ユニークなEurocircuitsモデルを作ってオンライン環境に移行したきっかけは何だったのですか?
Stans: 1994年以来、製造コスト、そしてPCBの試作や少量生産の価格を抑える方法を模索していました。提供する技術を標準化し、1つの製造パネルに複数の注文をプールすることが、試作や少量生産のコストを抑えるために重要であることにすぐに気付きました。同年、標準化された技術を初めて市場に向けて提示しました。多くの顧客にとって、それまで、工学技術は量産のためのものでしたので、標準化は思い付きませんでしたし、注文のプールは試作の戦略としてはまだ知られていませんでした。この結果、私たちは、多くの製品をより標準化し、市場にインターネットとWeb販売を導入して、考え方と戦略を完全に改めました。1999年、私たちは新しいビジネスフロー「Eurocircuits」を構築しました。PCB試作のための完璧なEビジネスフローです。オンライン化することで、私たちは、割引の交渉が不可能でWebサイトで特別注文ができるプラットフォームを提供する新しいプロファイルを入手できました。顧客は、標準化と注文のプールのメリットに気付き始めました。Eurocircuitsの列車は駅を出発しました。そして、全ての資金をオンライン販売プラットフォームの開発とサービス拡張につぎ込みました。工場への投資は全てそのサービスモデルに向け、これにより、私たちはPCBの試作と少量生産という分野でトップに立つことができました。
長年に渡って、私は自分たちの市場モデル、オーダープールの歴史などについて色々書き綴ってきました。それらはhttps://www.eurocircuits.com/category/eurocircuits/ でご覧になれます。
Warner: 間違いなく、それ以後広く採用されることになる、新しいビジネスモデルを構築なさったということですね。おめでとうございます。ペースが速く人手をあまり介さないこのモデルで、どのようなDFMの問題が起きるのか、繰り返し発生するDFMの問題を減らすためEurocircuitsは何をしているのか、ぜひ知りたいところです。
Stans: 基板の最適な設計フローでは、エンジニアは、今日の産業用電子機器で何が可能なのか、明確で世界的に容易に受け入れられやすい業界標準はどのようなものかを製造サイドから認識している必要があります。これにより、最もコスト効率が高く信頼できる基板製造方法が可能になります。これらの認識を持ってレイアウトを始め、CADソフトに組み込まれたDRCのルールを使用することで、私たちはDFMに関する最悪の事態を回避しています。
それでもやはり問題はあります。私たちが直面するDFMの問題の上位を挙げてみましょう。
- 非常に多くの場合、CADからCAMへのデータ転送で、不完全、不鮮明、不良などの問題が発生する
- 非常に多くの場合、Contourファイルが不正確または不鮮明
- 多くの場合、内部ミリングが非常に不明瞭
- アニュラリングの制限が守られていない
- 多くの場合、穴がメッキされているかどうかが不明確
これらの問題に対応し、EurocircuitsはPCB Visualizerを開発しました。これは、設計基準に沿って設計内容を製造できるよう、顧客がガーバーデータを表示、解析、修正するために無料で使える自動視覚化ツールです。先ほど挙げた全ての問題は直ちにフラグを付与され、1ユーロセントも払うことなく、特定された問題を解決するためのツールが全て提供されます。
Warner: PCB Visualizerを提供する前は、DFMの問題を解決するために平均してどれくらいの時間を損失していましたか? このツールを追加したことでどのような影響が見られましたか?
Stans: PCB Visualizerがなかったときは、1つまたは複数のデータの問題、不具合、不明瞭などにより、注文の30%が製造前に中断していました。PCB Visualizerを使用して5年が経った顧客は、データ異常が3%を下回るようになりました。毎日平均400件を超える注文があることを考えると、この改善により、連絡する必要がある顧客が1日あたりおよそ120人だったのがおよそ12人に減っています。この件数なら容易に対処でき、対応品質に重点を置くことができて、不要な期日遅延が減らせます。これはまさに、私たちと顧客の双方にメリットがあると言えます。
Warner: それでは、誘導的な質問になりますが、全ての設計者に、基板の製造について何を知っていてほしいですか?
Stans: 全てです!(笑)と言うのは冗談で、そのようなことはあり得ません。本当の進歩とは、全ての設計者が、レイアウトを概念化できるからといって必ずしも製造できるとは限らないことを理解することです。PCB製造業者は製造に関して実世界の物理的制約にしばられており、それらの制約の外縁に近づくほど、標準から大きく離れていきます。そうでなかったとしても、全ての設計者が最適な設計フローに対応し、基板を設計するにあたって最先端の設計技術を常に身につけるようになれば、とてもうれしいです。
Warner: 物理的制約と継続的な製造方法のイノベーションについてですが、今から10年後の基板製造はどのようになっていると思いますか?
Stans: 私たちは全員、10年後もPCBの製造に100%直接かかわっていると思います。多層基板の数は増え続けるでしょう。2000年の最初の10年で、電子機器はますます小型化されました。産業用電子機器にとって、小型化はもはや重要な問題ではありません。しかしながら、私たちは、インターネットに接続されたあらゆるアプリケーション(IoT)に対応する必要があります。そのため、非常に低価格の高速データインターフェイスの必要性は高まり続けるでしょう。これは、基板の製造と設計に、最適な価格の標準的ソリューションを探すという新たな課題をもたらします。
Warner: Dirkさんは、ミュンヘンで開催されたAltiumLive 2017でプレゼンテーションをなさいましたよね。その時の概要とそのトピックを選んだ理由をお話ししていただけますか?
Stans: 2012年の初めにPCB Visualizerと高性能なメニューの提供を開始して以来、私は必死に同じ釘を打ち続けています。この業界は常に、CADとCAMの間の溝と、相互のデータ転送に悩んでいます。私たちはそれを「最適なPCB設計フロー」と呼んでいます。基本的な考え方は新しいものではありせん。25年前も私たちは同じことをしていました。PCBの設計/レイアウトを行うのは、PCBの製造について確かな知識を備えた専門家でした。彼らは1社以上の製造業者と確固たる関係を築いていました。それらの製造業者の多くはヨーロッパにいて、簡単に連絡がつきました。製造に関する知識はCAD側で最新に保たれました。レイアウト作業を開始する前に、知らないことやわからないことを質問していました。
何年かの間に、ヨーロッパにおけるPCB製造の世界的シェアは40%から約5%に落ち込みました。PCB設計者は絶滅危惧種になり、CADとCAMの溝はグランドキャニオンほどにも広がりました。今日、設計者は設計を始めるにあたって、実行可能な最新の製造プロセスについての知識を身につける責任を新たにする必要があります。標準を採用して製造を開始すると、より製造しやすいレイアウトを行い、コストを抑え続けることができるということを理解する必要があります。連絡、レイアウト、チェック、修正といった手順の後に初めて発注が可能になります。このことは、設計者と製造業者の双方にメリットをもたらす、「1回目で正しく行う」製造につながります。私たちは、このような点で役立つ多数のツールを開発してきました。設計者が製造を真に理解して、「1回目で正しく行う」製造を行えるよう、25年前と同じ哲学を、無料のオンラインツールを通じて再び導入できることが、私たちの夢です。
先日、この哲学の実装基板への適用を始めました。この手法により、顧客データのクリーニングにかかわる多額のコストが理由で、現在はあまり普及していない試作品の組み立てサービスの市場が広がるでしょう。
市場イネーブラーであるだけでは不十分です。教え広めようとしていることを実践し、成功をサポートする万人向けのツールを作成する必要もあります。
Warner: 時代を超えたすばらしいアドバイスですね。Dirkさんの考え方や体験をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。
Stans: このような機会を設けていただき、ありがとうございました!
注: EIPCは、最新の製造に関するベストプラクティスを学ぶPCB設計者をサポートする組織およびリソースです。EIPCのWebサイトにはこちらから、アクセスできます。また、こちらから、フランスのリヨンで開催予定の年次カンファレンスについての情報をご覧になれます。